大判例

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福岡高等裁判所 昭和61年(ネ)307号 判決 1987年3月31日

控訴人

タイセイ電機株式会社

右代表者代表取締役

幾度守隆

右訴訟代理人弁護士

松岡益人

被控訴人

株式会社ヂーエス商事

右代表者代表取締役

豊永和昭

右訴訟代理人弁護士

岩崎明弘

丸山隆寛

牟田哲朗

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  本件について福岡地方裁判所が昭和六〇年一〇月一日にした強制執行停止決定を取す。

五  前項に限り仮に執行することができる。

事実

一  控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり改めるほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏一〇行目「和解金」とあるを「本件和解金として」と改め、同一二行目「右1」とあるを「前項」と改め、同三枚目表三行目「各訴」の前に「本件」を挿入し、同枚目裏一二行目「みなされるから、」の次に「控訴人は本件清算条項中の『当事者双方』にそもそも該当せず、従って」を挿入する。

2  同四枚目表一一行目「なつたことはない。」の次に「控訴人・被控訴人間においては本件判決により紛争は既に解決済であり、更に後日の為に紛争の最終的解決として権利関係を確定される必要は全くなかつたものである。」を挿入する。

3  同五枚目表一二行目の次行に「4 控訴人の主張4について」を挿入し、同未行冒頭の「4」を削除し、同枚裏三行目「本件のように」の次に「コンフレッカー売買契約に関連した一つの紛争と見ることのできる法律関係につき生じた本件代償請求権のような」を挿入する。

理由

一控訴人、被控訴人間に本件確定判決が存在し、同判決は、被控訴人に対して、控訴人が被控訴人に対して有する本件代償請求に基づき金七二八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年五月一八日から支払済みまで年六分の割合の遅延損害金を支払うべき旨命じていること、しかして、その後において、被控訴人がクスダ事務機、日本電卓及び控訴人に対していた福岡地方裁判所昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件について昭和六〇年九月六日裁判上の和解が成立し、その和解条項として、

(一)  クスダ事務機及び日本電卓は、連帯して、被控訴人に対し、本件和解金として金四〇〇〇万円の支払義務あることを認め、これを昭和六〇年一二月二五日限り支払う。

(二)  クスダ事務機及び日本電卓が前項の支払を怠ったときは、被控訴人に対し昭和六〇年一二月二六日以降完済に至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。

(三)  被控訴人は控訴人に対する本件各訴を取下げ、控訴人はこれに同意する。

(四)  被控訴人のその余の請求を放棄する。

(五)  当事者双方は、本条項に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

との記載がなされている事実は、当事者間に争いがない。

二被控訴人は、右裁判上の和解、ことに第五項の清算条項により、本件代償請求権を放棄した旨主張するので検討するに、右当事者間に争いのない事実と〈証拠〉によれば、以上の事実が認められ、これを履すに足る証拠はない。

1  本件判決は、控訴審において昭和五六年一二月二五日に言渡され、上告棄却により同五八年二月一〇日確定したものであるが、その訴訟物は、本訴として、控訴人を売主、被控訴人を買主として昭和四八年二月七日に締結された電子計算機用発電機であるコンフレッカーの継続的売買契約の解除に基づく、控訴人から被控訴人に対する右機械九台の引渡と、これができない場合の代償請求、反訴として、被控訴人から控訴人に対する右機械の納期遅延損害金二億一九三〇万九五〇〇円の支払請求であり、本件判決は、被控訴人の売買代金支払義務不履行を理由とする昭和四八年九月一七日の契約解除を理由として、右代償請求権のうち金七二八万九〇〇〇円の支払を命じたが、控訴人、被控訴人のその余の請求はいずれもこれを棄却したものであること。(もつとも、同判決においては昭和四八年三月から六月までの分の納期遅延損害金五九一万一〇〇〇円が発生したが、前記代償請求権との相殺により消滅したものとされた。)

2  本件和解調書に表示された福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件(併合訴訟)のうち、右三一九号事件は、被控訴人が控訴人から前記継続的売買契約に基づいて購入したコンフレッカーをクスダ事務機及び日本電卓に専属的に卸売りする契約をなしていたのに、右両社は被控訴人を排除して控訴人との間で直接取引を行なつたとして、被控訴人が、右両社及び控訴人に対し、各自債務不履行又は共同不法行為を理由に昭和四九年三月末日までの逸失利益及び慰藉料合計金四四九八万円の損害賠償を求めたものであり、また、福岡地裁昭和五三年(ワ)第四二三号事件は、クスダ事務機及び日本電卓が被控訴人との間の前記専属的卸売契約に違反してコンフレッカー九台の受取りを拒否し、かつ、前同様に控訴人と直接取引を行なつたとして、被控訴人が右両社に対し、各自保管料金一六三万五〇〇〇及び逸先利益金一五四四万円の支払を求めたものであり、福岡地裁昭和五三年(ワ)第一四六四号事件は、クスダ事務機及び日本電卓が前同様に控訴人と直接取引を行なつたとして被控訴人が右両社及び控訴人に対し、各自共同不法行為及び債務不履行を理由に昭和四九年四月一日から同五三月三月三一日までの逸失利益金一億六〇五〇万円の損害賠償を求めたものであり、福岡地裁昭和五四年(ワ)第五五五号事件は、控訴人が被控訴人に対するコンフレッカー納入を遅滞したのは、控訴人とクスダ事務機及び日本電卓の共謀によるものであるとして、被控訴人が右両社及び控訴人に対し、各自昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの納期遅延損害金五億七三〇五万円の支払を求めたものであり、以上の各事件について昭和六〇年九月六日前記内容の本件裁判上の和解が成立したこと。

3  本件判決は、控訴人・被控訴人間の継続的売買契約の解除が昭和四八年九月一七日なされたことを前提とするものであるところ、本件和解調書に表示された事件は、契約解除を前提とせず、同日以降も控訴人と被控訴人間の継続的売買契約が有効に存続していることを前提とする訴訟であり、それ故に、控訴人は本件和解成立以前に上申書を提出し、前記契約解除の抗弁提出を理由として他の当事者たるクスダ事務機、日本電卓との口頭弁論の分離を申立てたこと、

本件和解調書においては、被控訴人とクスダ事務機及び日本電卓の二社の間においては右二社は連帯して被控訴人に対し和解金として四〇〇〇万円の支払義務があることが定められているのに対し、控訴人と被控訴人間においては、前二社とは異なり、被控訴人は本件和解調書に表示された控訴人に対する前記各訴訟事件を取り下げると記載され、控訴人の被控訴人に対する確定判決に基づく本件代償請求権の帰すうについては何ら触れてない。

4  本件和解に際して、控訴人、被控訴人とも本件確定判決が存在することは明確に認識していたが、右和解条項作成時においては右確定判決の表示する本件代償請求権の取扱いにつき具体的な話し合いは全くなされておらず、控訴人は本件和解とは無関係のもので有効に残存するものと認識し、被控訴人は本件和解の清算条項により控訴人は右代償請求権を放棄したものと認識していた。

三ところで、裁判上の和解条項は、当該訴訟事件の経過を踏まえ、文理に従い、かつ条項の全体を合理的かつ統一的に把握して解釈すべきものである。

これを本件についてみるに、前示認定の本件和解成立に至るまでの経過に照らせば、控訴人は本件確定判決におけると同様、和解の成立した福岡地裁昭和五〇年(ワ)第三一九号ほかの事件においても契約解除の抗弁を提出し、あくまで争う姿勢を示したものと解することができるから、本件裁判上の和解の清算条項に本件確定判決に基づく代償請求権の放棄を含ましめることは、少なくとも控訴人にとつては著るしく不合理かつ不利益となるだけでなく、前記各訴訟事件の取下条項が清算条項より前は記載されているのであるから、本件和解条項の記載自体に、右代償請求権放棄の文書がない限り、本件清算条項により右代償請求権の放棄を含む合意が成立したと解すべきでない。

そして、本件和解条項に右代償請求権放棄の文言の存在しないことは前示のとおりである以上、本件裁判上の和解により、控訴人が本件代償請求権を放棄したものである旨の被控訴人の主張は、理由がなく採用することができない。

四よつて、被控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと異なる原判決は不当であるからこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、強制執行停止決定の取消とその仮執行の宣言につき民事執行法三七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高石博良 裁判官堂薗守正 裁判官亀川清長)

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